動脈硬化とは
体を街に例えると、心臓とか、脳などの街があるとすると、動脈は上水道、静脈は下水道に相当します。
人間の体は、動脈を通して血液が酸素や栄養分を全身に運び、静脈を通して、血液が二酸化炭素や老廃物を運び出す仕組みとなっています。
例えば、心臓という街がいくら立派でも、水道管にあたる動脈が詰まると街の機能がマヒしてしまいます。これが心筋梗塞です。脳という街で、水道管にあたる動脈が詰まると脳梗塞に、水道管にあたる動脈が破裂すると脳出血となります。
動脈硬化はどうしておきるの
血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が多いと、血管壁の中にLDLコレステロールが入り込んでしまいます。入り込んだLDLコレステロールは、毒性があって有害な酸化LDLになります。これを排除しようと、血液中の白血球の1つであるマクロファージが、血管内に侵入し、酸化LDLを食べてしまいます。しかし、次から次に、LDLコレステロールは血管内に侵入するので、マクロファージ内に、酸化LDLがどんどんたまり、ついに、マクロファージ自体も壊れて破裂してしまい、そのまま血管内にとどまります。このようにして動脈硬化が形成され、血管の内腔が狭くなり、動脈硬化で血管の内腔がふさがると、脳梗塞や心筋梗塞となります。
動脈硬化の主原因であるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が、日本では放置されています
上記のように、動脈硬化が起きるきっかけは、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)過剰です。これに、高血圧、糖尿病、甲状腺機能低下症、肥満、喫煙、不適切な食事、不適切な運動習慣が加わると、動脈硬化の進行は加速します。
令和5年6月に開催された、第59回日本循環器病予防学会学術集会で、約2万5000人あまりの地域住民の健診データを解析したところ、正常値の140よりかなり高いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)180以上の患者さんの95%が未治療であることが判明しました。
このように、5~10年だと、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高くても何も起こらないからといって、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)高値を放置するため、日本では、他の先進国に比べて、寝たきりの期間が大幅に増加しています。
動脈硬化はいつから始まるのでしょうか
動脈硬化は、20~30代から、すでに、始まっています。
動脈硬化は中高年になってから起こるものだと誤解されている人も多いと思いますが、諸説ありますが、20歳前後から徐々に進行します。
自分の動脈硬化はどこまで進行しているかチェックしましょう
残念なことに、動脈硬化が進行して、血管が狭窄しても自覚症状がありません。
自覚症状が出るか出ないかで様子を見ていると、動脈の内腔がどんどん狭窄して、ある日突然、動脈が完全に詰まると、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な自覚症状がでて、はじめて気づく人が多いのが現状です。
また、動脈硬化の原因は、高血圧、高脂血症、糖尿病、甲状腺機能低下症、肥満、喫煙、運動習慣など多岐にわたるため、動脈硬化指数のような基準はありません。
そのため、下記の検査を施行して、自分の動脈硬化はどこまで進行しているかチェックしてもらう事が、大切です。検査は、動脈硬化の原因を特定する検査と、実際にどの程度動脈硬化があるか調べる検査に分かれます。
動脈硬化の原因を特定する検査
生活習慣 | 喫煙歴、肥満度、運動習慣、睡眠時間 |
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血液検査項目 | コレステロール値、血糖値、尿酸値、甲状腺機能 |
一般検査項目 | 血圧、心電図、胸部レントゲン(大動脈の動脈硬化をチェック) |
実際にどの程度動脈硬化があるか調べる検査
一般検査項目 | 心電図、胸部レントゲン(胸部大動脈の動脈硬化をチェック) |
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心エコー検査 | 心臓弁膜症の有無、慢性心不全の有無を調べます |
頚動脈エコー検査 | 脳動脈に直結する頚動脈の動脈硬化を調べます |
腹部エコー検査 | 腹部大動脈の動脈硬化の程度、腹部大動脈瘤の有無を調べます |
健診や人間ドックを受けていれば大丈夫?
健診や人間ドックを毎年受けているから、大丈夫だと思っている人も多いと思います。
残念ながら、通常の健診や人間ドックでは、甲状腺機能や心エコー検査、頚動脈エコー検査などが抜けている事が多いので要注意です。健診や人間ドックでは、中性脂肪は空腹時で検査する場合が多いのですが、動脈硬化と関連するのは、食後の中性脂肪です。また、腹部エコー検査も胆石の有無等の簡易検査が多く、腹部大動脈の動脈硬化の程度まで調べることは、少ないのが現状です。橋本病に代表される甲状腺機能低下症は女性の10人に1人、男性の30人に1人の頻度で発症し、知らずに放置しておくと動脈硬化が進行するこわい疾患ですが、検査されないことが多いので要注意です。
また心エコー検査によって心不全の元になる心臓の弁の動脈硬化の程度、頚動脈エコー検査によって脳梗塞の原因となる脳動脈の動脈硬化の程度を頚動脈の動脈硬化によって推察できるので、できれば、1年に1回はチェックしておくのが理想です。
動脈硬化の治療
動脈硬化の治療は、既に動脈硬化があるか否かで大きく異なります。
実際にどの程度動脈硬化があるか調べる、心エコー検査、頚動脈エコー検査、腹部エコー検査、心電図、胸部レントゲン(胸部大動脈の動脈硬化をチェック)に所見がない場合、治療の中心は、動脈硬化の原因となる生活習慣の改善が主となります。
ただし、心エコー検査で心不全の原因となる心臓弁膜症が発見された場合、頚動脈エコー検査で脳梗塞の原因となる頚動脈プラークが発見された場合、腹部エコー検査で腹部大動脈瘤の原因となる動脈硬化所見が発見された場合、心電図で異常所見(ST-T変化等)が発見された場合、胸部レントゲンで胸部大動脈の動脈硬化所見が発見された場合は、生活習慣の改善と並行して、薬物療法を行わないと、手遅れとなり、心不全、脳梗塞により寝たきりになる可能性が高くなります。
このように、動脈硬化の治療は、その人の動脈硬化の程度により異なり、また、生涯、寝たきりにならないという長期的な視野で施行しなければなりません。
当院にご来院された場合は、上記検査を行い、現状でのベストのプランを作成しますのでお気軽にご来院ください。